死が二人を分かつとも

「やし、っ!」

「ほら、僕の言った通りでしょ?やっぱり斧が怖かったんだー。彼女の悲鳴が止んだよ。おや?でも、涙を流しているねー。まだ怖いか?やっぱり顔?あんな顔に睨まれたら、夜にトイレも行けなくなるよねー?あはは、じゃあ、彼氏くん。次は額を地面にこすりつけたらどうかな?二度とその顔を彼女に見せないよう、膝ついて、頭を下げなって!」

「……。そよ香、必ず助ける」

膝をつく彼。頭を下げる。
笑い声が上がった。

「あははは!ほんと、言うこと聞いた!君にも妻の素質がある!妻もそうだった、僕が言えば言うとおりにしてくれた!ああっ、もう一度やりたくなってきたよ!君も妻みたく、手足折って顔の原型なくなるほど殴りたい!この僕の手で!」

男が何をしたいのか、想像もしたくなかった。

助けてほしいの心境から一変。ーーいや、最初から思っていた。

「私なんかいいから、逃げてっ!」

こんな、私なんか。
私のせいで、彼が苦しむならーーいっそ。

「っ、い!」

絞められた箇所ではなく、頭に痛み。
白々しく、大丈夫ー?と私の顔を覗き込む男。

「いたいいたい飛んでけー、してあげようか?」

「ひっ!」

熱気のこもった吐息が頬にかかる。
開けられた口からは舌が出ていた。

全身、総毛立つ。目を閉じ、首が絞められること覚悟で暴れた。

悪あがき。私一人でどうにかなるわけない。

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