死が二人を分かつとも

「う、うわっ!」

だからーー

「な、なんだ、この“白いの”!」

危機を脱したのは、誰かの力あってこそ。

猫の威嚇が聞こえる。
腕を振り払い、たたらを踏む男に、白い羽ばたきがまとわりついていた。

その間に、私は男の腕から逃れ。

「もう、大丈夫だ」 

弥代くんが、前にーー

「ただじゃ、殺さないから」

私と、すれ違う。

目で追った時には、既に弥代くんの拳が男の顔面に入っていた。

豚に似た高く短い悲鳴をあげ、男はその場に倒れ込む。

不健康そうな腹部に膝打ちをし、悶えている隙に手近にあった斧を拾う。

男の口に、斧の柄をねじ込むために。

「チロ、そよ香連れて、ここから離れてくれ。遠くじゃなくていい、“俺のやること”が見えない位置でいいんだ」

白の羽ばたきが、私のもとに飛んでくる。

「そよ香、少し待っててくれ。聞きたくない時は、耳を塞げばいい。俺、これから人殺しするから」

がんっ、と斧の柄が力強く沈み込んだ。

「法律がないなら、何をやっても許される。だろう?」

潰れた声帯で、命乞いをする男に当てられた言葉。彼の意識は、私に向いていなかった。

止めようとする。彼に人殺しなんてと思ったのに。

「人を殴るのが止められないほど楽しいとか、言っていたが。全然だ。楽しくなんかない。お前殺したい怒りばかりが占めて、楽しさなんか微塵もない……!どうして、そよ香にあんなことを!」

悲痛にも似た叫びが、私の制止を呑み込んだ。

何度となく振り下ろされる柄は、殴打から突き刺しの行程になるほど野蛮。暴力的行為は忌避すべきことなのに。

「そよ香にしたこと以上に、怖がれ!目には目をじゃあ、足りないんだっ。何にもしていないそよ香に、お前は……!」

何も、言えない。

悪への裁きなら、暴力も善行。罰を与えるものは、すべからく正義。悪に対峙するのは、真逆の存在だ。

でも、端から見ている第三者が、その暴力を見て。

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