死が二人を分かつとも

「“いい気味”(ざまあみろ)、だろ?」

こちらを見ない彼は、言う。

「そよ香は、暴力的なことが嫌いだ。分かっている、お前は優しいし、大概の奴はみんなそう。ーーそう、“ごまかしている”」

「なに、を」

「自分に危害加えようとした奴、酷いことをした奴。そんな奴が笑顔で過ごすことを望む奴もいない。いっそ、苦しめられた以上に苦しめと思う。けれど、何もしない。する奴は僅か。相手を殴りたい殺したいの憎しみを押さえ込んで泣き寝入りする。

復讐してしまえば最後、それは正義じゃない。暴力を振るえば、暴力が返され、次は自分が裁かれる番になる。『やられたので、やり返しました』が通る世界じゃなかったから。

でも、『やってしまえば』ーー」

「違う……!」

些細な抵抗だった。
言葉に押しつぶされる前に、自身の気持ちを吐き出したのに、たったの一言。

あくまでもこちらを見ない彼は、「そよ香は、こういうこと嫌いだものな」と繰り返す。

「でも、俺はーー逆の立場なら嬉しいよ」

穴だらけになってもまばたき出来る男を、彼は更に痛めつけていく。

「素直に言う。そよ香が俺のために心から怒って、裁かれるとか許されないとか、人として異常だと言われようが、こうして人(今までの自分)を捨ててまで、俺のために何かをしてくれるのは、嬉しい。愛されているって思えるから。そよ香が、何をしても俺の気持ちは変わらない」

「っ!」

耳を塞いでも聞こえる言葉は鉄槌。
自身の悪(異常性)に振り下ろされる。

人が痛めつけられていく図に、いい気味だなんて、そんなの……人として間違っているじゃないか。

なのに、どうして。

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