死が二人を分かつとも
「変わらない。余計に愛せた。ーー“嬉しかった”」
まばたきした男の瞼ごと、眼球が潰された瞬間、私は駆け出した。
違う違うと、心に渦巻く黒い霞を否定する。
嬉しくなんかない。嬉しいわけがない。
私は無事だったのだから、あの人があんな目に合う必要ないじゃないか。
「そよ香さんっ、そよ香さん!あんまり離れちゃ……!」
助けてくれた白い羽ばたきの声が聞こえても、足は止まらなかった。
逃走者は、ただひたすらに遠くに行きたいと思う。
けど、私が逃げたいモノって何?
なんで、逃げている?
彼との距離が離れたのに、それでも『逃げろ』と警笛のように鳴るものは、いったいどこに向かえと言うのか。
「わたし、私は……!」
気持ちに蓋は出来ないと言うのにーー