死が二人を分かつとも

(二)

「そよそよ、おはよー」

教室に入るなり、真奈が笑顔で挨拶をしてくれた。

「あ、れ。ここーー」

どこだと思った自分は、相当寝ぼけているらしい。2ーAの教室だ。

「おはよう、真奈」

席につきながら言えば、話したがりの真奈は早速、口を開く。

昨日テレビで、親が、隣のクラスの奴がレインのライブに。そうして、掛川弥代くんについて。

口下手な私にとって、真奈みたいな性格はありがたい。聞いていて楽しい話だし、こちらも明るくなれる。

おはよーと、混ざった由紀も真奈と同じ性格だから、私はとことん友人に恵まれていた。

「でさー、岸谷。あの顔でナンパとかに挑戦してんだよぉ」

「うわぁ、無謀だねん」

「そこっ。そういうことは、本人いない時に言うもんだろうが!」

クラス全員が笑える話で毎日持ちきりだ。
今日も朝から楽しいなぁと、穏やかな気分になってしまう。

「掛川くんがナンパすれば、絶対いけるのに、なーんでしないんだろうねぇ」

真奈から振られた話ーー弥代くん関連の話題は、内心ドキドキしてしまう。

最初の内はバレないかハラハラしたけど、あれから一年近く経ち、ハラハラがドキドキになるほど慣れてきた。

「『好きな子がいるから』で、ナンパとかしないんじゃないかな」

当たり障りない答え。由紀もそうだねんと、頷いている。

「そこだってぇ。その『好きな子』も、掛川くんが告白すれば一発で落ちると思うのにさぁ。未だに掛川くんが行動起こさないって、おかしくない?」

「人の好みは色々だからね。もしかしたら、掛川くん『好きな子』とやらに、フラれたのかもん」

「フラれたらフラれたで、あたしにもチャンスあるかなぁ」

真奈の言葉に、ぎょっとしてしまう。

「真奈、また告白するの?」

私が弥代くんと付き合う前に、真奈が告白していたのは知っている。

断られてから、潔く身を引いたと自分から言っていたのに。

「んー、やっぱり付き合ってみたいなーって。そよそよ、応援してくれる?」

「あ、う、うん」

隠し事がある身として、『友達なら』の言葉を返す。

「もし付き合えたとしたら、親友の私たちには教えるのだよー」

「分かってるってぇ、由紀はともかく、そよそよには!」

「ひどー」

冗談冗談と受け流す真奈が、こちらを見る。

「掛川くんと付き合えたら、真っ先にそよそよに話すね。ま、玉砕覚悟だけどぉ」

親友としていてくれる真奈に、後ろめたさを感じてしまう。

去年から実は付き合っていた。
話してしまえば楽なのに、ずるずると引きずり一年が経過した。

時が経つにつれ、秘密の文字が成長していく。

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