死が二人を分かつとも
ーー
今が、何の時か知れない。
ただ、やけに楽しそうなクラスメイトが目に入った。
「『弥代くんとのデート、楽しかったよ』だってー」
「ありきたりじゃん。つか、デートって家で引きこもってるだけでしょ?掛川くんもよく付き合ってるよねー」
「『明日は雨みたいだよ。傘持ってかなきゃね』とか、お母さんかよっ」
「見せてー。うわ、マジだ。うちの母さんみたい!絵文字も顔文字もないし、女子高生としてどうなの、これ!」
「根暗らしい文章じゃーん。ほい、岸谷パス」
「おー、どれどれ。『昨日の弥代くんは、激しかったね。はあと』だってよー!」
「ぶはっ、もっとマシなこと言えってー」
笑いの中心になっていたのは、私のスマフォだった。
教室のみんなに配るように、無造作に投げられていく。
受け取った生徒がスマフォをいじり、メールを読んだり、弥代くんと撮った写真を笑いネタにしていた。
「なっ、返して!」
「最低女が逆ギレしてるよー?」
「えー、なにー?聞こえないー?岸谷、あたしにもパス」
岸谷くんから真奈に移るスマフォ。取り返そうとしても、足をかけられ転倒してしまった。
「『弥代くんへ。今日もブスに告白されたんだって?また詳しく聞かせてね、楽しみ!』はは、ほんと、性格悪いねぇ」
そんなこと書いたことも、思ったこともない。けれども、真奈はそれが本心だと言いたげに、私を見下ろしていた。
「キレたいのはこっちなんだけどぉ?掛川くんさ、あんたみたいなのと付き合ってんの広まってから、立場悪くなってんだよねぇ。毎日、フラれた女子たちが詰め寄ってるみたいだし。実は掛川くんの弱みでも握ってんじゃないかって、弱み握れば私も付き合えるーとか言う女子も出てくるし。あんたのせいでぇ、みんな振り回されてぇ、迷惑してんのぉ」
真奈に同調するように、周りから最低女の声が飛んでくる。
「広めたのは、そっちなのに……」
言いながら、何を口にしているんだと自分でも理解出来なかった。
今まで黙っていただけの存在が反論したせいか、真奈が苛立ち気にスマフォを投げつけてきた。
「こうなるから、話さないでいたのに。みんなが傷付くと思って、黙っていたのに」
私は、彼女たちより下だ。
下の奴が、上の奴らに出来ないことをしたから、腹を立てている。
親友(対等)だと思っていた。けど、最初から私はーー
「うるさいっ!あんたが悪いのに、逆ギレしないでよ!もう学校来るな!掛川くんと別れて、引きこもってよ!みんな誰もがそれを望んでいるのに、毎日見せつけてさぁ!あんたみたいなブスが、どうして掛川くんと付き合えるの!あんたなんか、昔っから根暗で、あたしの後ろついて来るだけの奴だったのに!」
真奈(上)のプライドを引き裂くほどの、底辺(下)と見られていたんだ。
傷つけたくなかった。でも、ここまで傷付くとは思わなかった。
私を虐げたくて堪らないほど、認めたくないんだろう。だからこそ、理不尽だと叫ぶしかない。
更なる理不尽を味わう私の声も、届かないほどにーー