いないいないばあ
「あ、あの」
わたしがおそるおそる声をかけると、女性は同じ姿勢のまま、わずかに顔をあげた。
「あなた、あの赤ん坊のお母さんじゃないんですか?」
しかし、女性は何も答えようとしない。沈黙に耐えられなくなったわたしは、好奇心もあって、
「どうしてそんな格好をしてるんですか?」
と聞いてみた。すると
「だって……」
低く、くぐもった声が、手のひらの奥からもれでてきた。

「こうしてないと、落ちてしまうんです」
女性はそう言って、ゆっくりと両手を開いた。真っ白な顔が現れたかと思うと、次の瞬間、
ドスンッ!!

手に支えられていた頭は、まるでボーリングの球のように地面に落ち、そのままごろごろと転がって、わたしの足元で止まった。そして、悲しげな目でわたしを見上げると、
「ね?落ちたでしょ?」
そう呟いて、寂しげに笑った。
その後のことは、よく覚えてない。気がつくとわたしは、自分の部屋で布団をかぶって、震えながら朝を迎えていた。

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