無題
「でもここに着いてみたら、エミが居なくて。待ってみたけど来なくて、開いているはずのここの扉は閉まってるし、妙な声が聞こえるし…」
「妙な声?」
僕が聞き返すと、絵美は頷いた。
「なんだろう…呻き声みたいな…。それはすぐ聞こえなくなって、ほっとしてたら…小さな炎が見えたの」
絵美は一端ため息をついて、そして補足するように続けた。
「これくらいの小さな炎。長い間ずっと燃えてて…。それで、あたしずっと震えてたんだけど、そしたら扉の開いた音がしたから…」
それで、今に至るというわけだ。
「それじゃあ、エミの居場所は…」
僕は言いかけて口をつぐむ。絵美をこれ以上傷つけることはない。
「…………」
誰ともなしに黙り込んで、ゆっくりと時間が流れた。
「まだ火って燃えてるの?」そこで沈黙を破ったのは、響子の一言だ。
「火?」
首を傾げ、絵美はああ、と納得したように頷く。 「あたしがここに飛び込んだ時には、まだ燃えてたけど…」
自信のない答えに、響子は暫(シバラ)く難しい顔をしていた。そして立ち上がる。
「あたし、エミを探してくる」
「え!?」
驚いたのは他の面々だ。
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