愛を欲しがる優しい獣
第1章
01話:告白
「佐藤さん、ちょっといいかな?」
彼に声をかけられたのは今日の夕飯は何にしようかと考えながら廊下を歩いていた時だった。
何の変哲もない昼下がりであった。
勤務先の10階建てのビルから外を眺めれば、ここ数日の雨など嘘のような澄み切った青空が広がっていた。
春の長雨は我が家の家計に大打撃を与えた。
私は悪天候による葉物野菜の値上がりを心底悔しがり、しばらくの間割安な根菜類を駆使したカレーが食卓に上がることを覚悟せねばならないと丁度決意したところだった。
そう、今日も平穏な一日になるはずだった。
……彼が私に声をかけるまでは。
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