愛を欲しがる優しい獣
「私ね。線香花火って結構好きなんだ」
地面にしゃがんで、パチパチと爆ぜる音にゆっくりと耳を傾ける。同じように隣にしゃがんでいた鈴木くんに向かって問いかける。
「鈴木くんは?線香花火、好き?」
「好きだよ」
線香花火を見つめている私の顔にふいに影がかかる。
逃げられなかった。
逃げようと思う間もなかった。
初めて重ねた鈴木くんの唇は思いの外柔らかくて、身体が疼くような甘い熱を孕んでいた。
「好きだ」
何度も重ねられる唇を避けることなどできなかった。
まとわりつくような暑さに首筋に汗が流れる。
彼のつけている整髪料と、フレグランスの香りに包まれて頭がクラクラしそうだった。
風も、祭囃子の音も、何もかもが聞こえなくなって、まるで世界にふたりだけになったようだ。
私はただ、彼が与えてくれる甘美な熱を、囁きを、受け入れ続けるしかない。