愛を欲しがる優しい獣
「鈴木と何かあったの?」
隣で皿を拭いていた早苗は心配そうに尋ねてきた。
3日と空けずに訪ねてきていた鈴木くんがあの日を境にぱったりと来なくなったからだろう。
「ううん。何でもないの」
とっさに作り笑いをして早苗の問いかけを誤魔化す。
“何か”ならあった。不意打ちのようなキスは、確かに私と鈴木くんの距離を遠ざけていた。
鈴木くんからメールも来なくなった。そして、私も夕食に誘わなくなった。
あれほど一生懸命選んだ茶碗も渡せずじまいだった。
こうなったから今だからこそ、あの関係がひどく曖昧で脆いものだったことがよく分かった。
私は鈴木くんを傷つけていたのだろうか。
……あの時と同じように。
蓋をしていた記憶が蘇ってきて、ひどく苦しくなった。
(私はまた同じことを繰り返そうとしているのね)