愛を欲しがる優しい獣
「姉さん?」
私は早苗の前だというのに、ポロポロと涙をこぼしていた。涙は次から次へと溢れて止まらなかった。
「鈴木くんに好きだと言われたの」
ご飯が美味しいと、はにかむ彼が好きだった。
買い物に行くといつも荷物を持ってくれる優しさに感謝していた。
アニメを見て無邪気にはしゃぐ姿に、つい私まで声をたてて笑ってしまっていた。
瓶底眼鏡の奥の瞳はいつも私を温かく見守ってくれて。
あの笑顔が誰のためのものだったか、今更気が付く。
(どうしてなの……)
どうして大事にしたいと思ったものは、この手から零れ落ちていってしまうのだろう。
「鈴木くんはもう、この家には来ないわ……」
何ものにも代えがたい愛おしい空間はもう壊れてしまったのだから。