愛を欲しがる優しい獣
29話:隠密行動
「姉ちゃんと喧嘩でもしたのか?」
カウンター越しに訝しんでいるような視線を送る樹くんの顔つきが、どことなく佐藤さんに似ていて胸がチクンと痛む。
最後に見た彼女の怯えた瞳を思い出してしまう。
「喧嘩なんかしてないよ」
「でも最近、来ないじゃん。なんで?」
俺の他に客がいないせいか、樹くんは随分と砕けた口調になっていた。
コホンと仁志さんが咳払いをする。アルバイト中はあくまでも客と店員。言外にほのめかしているのだ。
「俺が悪いんだよ」
勝手に自分の気持ちを押し付けて、欲望のままに振る舞って。怖がらせて、困らせて、最後には嫌われた。