愛を欲しがる優しい獣
自己嫌悪で吐き気がしそうだった。
他の誰よりも何よりも彼女を大事にしたかったのに、一番彼女の心を傷つけたのは俺だった。
信頼を裏切った罪悪感で胸がいっぱいになって佐藤家から足が遠のいた俺の居場所は、もうこのバーの片隅にしかない。
「悪いと思っていらっしゃるなら、謝ったらいかがですか?」
樹くんの言葉は慇懃無礼とも、叱咤激励とも聞こえた。
「そうだね」
俺は曖昧に笑って、グラスを傾けた。
結局、なんだかんだ言って拒絶されるのが怖くて、答えを先延ばしにしているだけなのかもしれない。