愛を欲しがる優しい獣

「あの男の子は佐藤さんの弟?」

「ええ。そうですけど……」

答えかけて、はたと気が付く。

(あれ…名前…どうして?)

顔を上げて男性の顔をよく観察してみる。

黒フレームの眼鏡はどう見てもレンズが1cmはあり、長く伸びた前髪が顔の上半分を隠していて表情はよく見て取れない。

首元の生地が伸びきったTシャツにボロボロのジーンズを合わせていて、我が家にあろうものなら速攻でゴミ箱行きまたは雑巾になる運命にあるだろう。

どう考えても知り合いにはいない…と思う。

「あの…どこかでお会いしましたか?」

躊躇いがちに聞くと、たっぷり10秒ほど経ってから返答があった。

「…鈴木です」

(鈴木って…もしかして…)

前髪と眼鏡越しに見えた瞳に少しだけ見覚えがあった。

数時間前、その瞳に見つめられていたからだ。

サーッと血の気が引いた。

何の因果で鈴木くんとスーパーで鉢合わせしなければならないのだ。

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