愛を欲しがる優しい獣
30話:トラウマ
「はい、姉さんの好きなココア」
早苗がテーブルに置いたマグカップには、私の好きなココアがなみなみと注がれていた。
甘い匂いと温かい湯気に導かれるようにしてそっと口に運ぶ。
「落ち着いた?」
「うん、ありがと」
早苗の淹れてくれたほろ苦いココアは私の心を随分と落ち着かせてくれた。
泣いた理由を早苗は聞かなかった。きっと、私が話し出すのを待っているのだ。
何から話したら良いのだろう。
「昔、ある人に言われたの。“君には恋愛なんて出来ないよ”って」
心の奥底にしまった思い出の蓋をゆっくりと開けていく。
最初の出会いはいつだっただろうか。
ああ、そうだ。3年次に選択するゼミを見学しに行った時のことだ。