愛を欲しがる優しい獣
「…本当に鈴木くん?」
さっきから何度も繰り返してきた言葉をもう一度投げかける。
「そうだよ」
鈴木くんはその度に同じように淡々と返す。
とてもじゃないが信じられなかった。鈴木くんがいまいち野暮ったい格好で街を歩いていることも。こうして隣に並んでいることも。
夕日はいつも通り西に沈んでいく。コンクリートに映る影は今日にかぎって一人分だけ多い。
それがなんだかおかしく思えてくすくすと笑みが漏れた。
だって信じられる?
あの鈴木くんがお米と幼稚園児を抱えて、四苦八苦しているなんて。
「ありがとう。送ってくれて」
「いいんだ。気にしないで」
そろそろ愛しい我が家の灯が見えてくる。
どの家にもポツポツと灯がともっていく。
ああ、なんだかこの空間が名残惜しい。
私は意を決して尋ねた。
「もしよかったら…ご飯でも食べていかない?」