愛を欲しがる優しい獣
「おかえり、亜由」
「おかえり、佐藤さん」
「ただいま」
佐藤さんはそう言うなり、テーブルの上の本をすべて片付けて本棚にしまった。
「鈴木くんはお母さんの生徒さんじゃないんだから、勝手にぺらぺら喋りだされたら困るでしょう?」
「怒られちゃったわ」
香織さんはそう言うと、俺に向かってお茶目に舌を出した。とても7児の母とは思えない茶目っ気ぶりである。
「カリカリしちゃって、亜由ったらストレスでも溜まっているの?」
冷蔵庫に買ってきたものをしまっていた佐藤さんは、ため息をつくとクルリと振り返って香織さんに言う。
「誰がカリカリさせているのよ」
「そうだわ!!鈴木くんとデートでもしてらっしゃいな!!」
香織さんはさも良い提案だと言わんばかりに手を叩く。