愛を欲しがる優しい獣

「え?」

矛先がこちらにも向けられて戸惑っている間に、ぐいぐいと背中を押される。

「ほら行った、行った」

「え?ちょっと!」

佐藤さんも一緒になって背中を押される。家から追い出され、バッグを押し付けられるとあとは香織さんのペースだった。

「じゃあ鈴木くん、亜由をよろしくね」

玄関扉がパタンと閉められた。おまけに鍵とチェーンまでかけられる。

「どうする?」

完全に侵入不可になった己の家を前にして、佐藤さんの決断は早かった。

「とりあえず、駅前でお茶でもしましょうか。暑いし」

今日は気温35℃を超す、猛暑日の予報が出ていた。

素直に同意して駅前まで歩く。

エアコンの誘惑にとてもじゃないが勝てそうにない。

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