愛を欲しがる優しい獣
電車に乗って1時間ほどで到着した水族館は、夏休み期間のせいか随分と子供の姿が目についた。思い出づくりをしようと思っているのは大人だけではないようだ。
「はぐれないようにね」
仕方なく隣に寄り添って手を繋ぐと、佐藤さんは口をとがらせて不満を訴えた。
「子供じゃないんだから……」
「子供みたいに水槽に釘付けになっているのは、どこの誰でしょうね」
「ひどい!」
入場券を買った際にもらったパンフレットで、不意打ちのように何度も肩を叩かれる。
ムキになればなるほど、佐藤さんが幼い子供のように見えてくるのはどうしてだろう。
(可愛い……)
もっと違う表情が見たくて、からかいたくなってしまう。
自分にこんないじめっ子のような一面があるとは思わなかった。