愛を欲しがる優しい獣
39話:お見送り
「お母さん、そろそろあっちに戻るわね」
「え?」
お母さんは近所のコンビニにでも行ってくるような気軽さで言うと、山盛りになった洗濯物を畳んでいた私の隣に座った。
「免許の更新も終わったし、報告書も全部書き終わったから」
一体、いつの間に仕事をしていたのだろうか。毎日呑気に子供たちと遊んでいた姿からは想像できない。
「来週の便を予約してあるの」
(もう、何を言っても無駄なのね)
相談もせず、ひとりでなんでも決めてしまって自分勝手な母親である。
今更、反対したところで出国をとりやめることはないだろう。
「みんな、寂しがるわね」
落胆で洗濯物を畳む手が止まった。
母親が帰ってきたと思ったのに、あっという間に元いた国に戻って行ってしまうなんて。
ひろむや陽と恵はどう思うだろうか。
海外生活の長いお母さんと一緒に過ごした期間が少ない分、別れの時は辛いに決まっている。