愛を欲しがる優しい獣
「亜由はもう泣かないのね」
「泣かないわよ」
「あら、あなたいつも泣いていたじゃない」
「そうだったっけ?」
いつの話をしているのだろう。
弟妹が増えてからというものの、その世話に忙殺されて自分のことで泣いたり怒ったりする暇などなかった。
母親との別れの時も樹や早苗が泣くから、私だけは泣いてはいけないと思って、いつもぐっと我慢をしていた。
ああ、そうか。
(まだ、弟妹が生まれる前のことね)
あの頃、両親が出掛ける時はいつも叔母夫婦に預けられていた。
叔母夫婦は優しかったけれども、両親と過ごす我が家の暮らしの方が何倍も楽しくて。
私は両親を見送るときは、いつも顔をぐしゃぐしゃにして泣いていたっけ。