愛を欲しがる優しい獣
「いつも後ろ髪を引かれる思いをしていたわ」
「嘘!一度だって行くのを辞めたことないじゃない」
ムキになって否定するとお母さんは私が放棄した洗濯物を畳みながら言った。
「嘘じゃないわよ」
(なによ……。もう……)
私は大人になった。
両親を恋しがって泣くような年齢ではないというのに、なぜか昔と同じように泣きたくなった。
叔母夫婦に預けられる度に幼心に思っていた。両親は自分のことなど不要なのだと。
弟妹が増えて寂しさは減ったものの、不信感は今までずっと拭えなかった。
泣きじゃくっていた幼い日の自分に教えてあげられたら良いのに……。
……泣かなくても良いんだよって。ちゃんと愛されていたんだよって。
「鈴木くんによろしく言っておいてね」
お母さんは最後にそう言うと、畳み終わった洗濯物を私に押し付けた。
「お母さん、ちょっと安心しちゃった。鈴木くんみたいな人が亜由の傍にいてくれて」
部屋に戻るお母さんの背中に向かって、これまで素直に言えなかった気持ちを伝える。
「行ってらっしゃい!気をつけてね!」
お母さんはやっぱりいつものように、陽気に返した。
「次は、お父さんと一緒に帰って来るわね」