愛を欲しがる優しい獣
「もしかして……怒っているの?」
「怒っていないよ」
「そう、もっと別のことね」
彼女は自分の言葉を取り消すように首を振った。そして、触れてはいけない真実にたどり着いてしまう。
「……鈴木くんは、木下課長のことをとても信頼していたのね」
佐藤さんは背伸びをして俺の頬に触れた。まるで髪で隠れた表情を探るように。
「……違う」
「違わないわ。だってこんなにも傷ついているもの」
眼鏡を外されて、無防備な顔を晒す。きっと自分は驚くぐらい、みっともない顔をしているだろう。
佐藤さんが指摘したことは図星だった。
そう、俺は木下課長のことが嫌いじゃなかった。