愛を欲しがる優しい獣
47話:審判の時
(これでよし)
鏡の前に立って久し振りに髪をセットすると、ギュッとネクタイを締める。一週間ぶりに袖を通したスーツがひどく窮屈に感じて、今すぐにでも脱ぎ出したくなった。
堕落した生活は突然、終わりを告げた。出社するように、と指示されたのは昨夜のことだった。
電話を受け取った瞬間はとうとう来たかと身構えたが、いざ出社する間際になるともうどうでも良くなってきていた。
不思議なくらい心が軽い。物事はなるようにしかならない。あとはさっさと終わることを祈るばかりだ。
昨夜書いた退職願いをいつでも提出できるようにとスーツの内ポケット入れる。
万が一でも、この退職願いを取り出す機会がなければ良いと思う。