愛を欲しがる優しい獣

(何てバカなことを……!)

俺はエレベーターを降りると総務部のフロアに向かって一目散に駆け出した。

佐藤さんはとっくに出社しているはずなのに総務部のどこにもその姿は見当たらなかった。

「佐藤さんいる!?」

その声に総務部中がどよめいた。俺が珍しいのか、大声を出す奴に驚いたのかは分からないが、とにかく些細なことに構っている暇はない。

「佐藤部長ですか?部長なら会議中で……」

呆けていた総務部内でいち早く反応したのは、確か佐藤さんの友人の渡辺さんだ。一緒に食堂にいる姿を何回か見かけたことがある。

俺はイライラしながら尋ね直した。

「亜由は?」

「亜由ですか……?」

渡辺さんは不思議そうに首を傾げた。まさか佐藤さんに用があるとは思わなかったのだろう。

「亜由ならさっき駐車場の裏手にある花壇に行きましたよ。持ち回りの水やり当番なので……」

「どうも!」

俺は渡辺さんに礼を言うと、再度エレベーターに乗り込んだ。

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