愛を欲しがる優しい獣

駐車場の裏手には社内緑化のために整備している花壇があった。

ただし、花壇とは名ばかりで花以外にも手頃に収穫できる野菜や、リラックス効果のあるハーブなども植えられている。

花壇があることは知っていたが、それが総務部の管轄だということを俺はこの日初めて知った。

(どこにいるんだ……?)

佐藤さんを探して花壇の周りを歩いていると、晴れているというのに空から水が降ってきた。

腕を上げて顔に降りかかる水滴を避けると、帽子を被って花壇の脇に立っている佐藤さんを見つけた。

彼女は備え付けの水道からホースを伸ばして、周りの植物に水をやっていた。

高く掲げた放物線は乾いた大地に恵みの雨を降らし、小さな命を芽吹かせる。

……まるで女神のようだ。

その女神に向かって、罵声の言葉を浴びせかけなければならないのは大変心苦しかった。

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