愛を欲しがる優しい獣
「バカ!」
大声で叫ぶと佐藤さんは俺が居ることに気が付いたらしく、水道の蛇口を閉めた。
「鈴木くん!今日、出社だったの?」
佐藤さんがあまりにも呑気に聞いてくるから、なおさら歯がゆく思う。
「監査部に目をつけられたらどうするつもりだったの?」
怒っていることを示すように低い声を出すと、佐藤さんが怯んだ。監査部に直訴したことがばれてしまったことを察したらしい。
「ごめんなさい。でも、私……やっぱり納得できなくて……」
「俺の為にそこまでしなくて良い」
俺はたまらなくなって愛しい彼女をきつく抱き締めた。
危うく佐藤さんまで横領事件に巻き込むところだった。不甲斐ない己を罵りたくなる。