愛を欲しがる優しい獣
「こっちに来て良かったの?」
話しがあると告げた女性の様子を察するに深刻な話題に違いないと思っていたが。
「裏口からこっそり出てきたから大丈夫」
(それは大丈夫ではないんじゃ……)
鈴木くんがここにいるということは、あの女性は待ちぼうけをくらっているということだ。
あしらわれた女性を気の毒に思う。
「知り合い……なの?」
私は意を決っして尋ねてみた。
友人と呼ぶには歳が離れている上に、互いにやけによそよそしい二人の関係をどう扱って良いのか分からなかったのだ。
「父親の秘書だよ」
「……秘書?」
聞き慣れぬ単語に首を傾げたのは私だけではなかった。
「“ひしょ”ってなに?」
「偉い人のお手伝いをする人のことだよ」
鈴木くんは箸を並べ終わったひろむを抱っこすると、先ほどまで遊んでいたブロックの前で降ろした。