愛を欲しがる優しい獣
53話:譲れないライン
「あ」
私は洗濯物を畳む手を止めると、つけっぱなしになっていたテレビの画面に釘付けになった。
「当選か……」
隣で鈴木くんが苦々しげに呟く。
テレビの画面に映されたのは万歳三唱をしている鈴木氏の姿であった。
当選を示す赤いリボンの花が誇らしげに党員名簿のボードの上で咲いている。
出口調査の結果が思わしくなかった鈴木氏は、開票が終わる直前まで当選と落選のラインを彷徨っていたのだがようやく結果が出たのだ。
私は少しホッとした。
小林さんの話を一度は断ったものの、やはり気になっていたのだ。
それは鈴木くんも同様だろう。
「良かったね」
「良くないよ。あんな老害、落選した方が世の為人の為っていうものだよ」
あまりにも憤慨して言うので、私はつい余計な心配をしてしまう。
世の中、上手く行っている家庭ばかりではないことは分かっている。
ただ、鈴木くんの言い方はある種の憎しみのようなものが滲んでいた。