愛を欲しがる優しい獣
「悪いけど……」
断りかけて、ふと気が変わる。
……この状況こそ、まさに佐藤さんが望んでいたものなのではないか。
とっさに謝罪の言葉を飲み込んで、新しい言葉を紡ぎだす。
「……良いよ」
そう言うと関谷さんは驚いたように目を見開いた。
「どうしたの?」
呆然としている関谷さんに尋ねると、彼女は頬を真っ赤にして答えた。
「だって、絶対断られるって思っていたから。鈴木さんは女性からのお誘いは全部断るって聞いていたので」
無邪気に喜んでいる様子は佐藤さんに相手にされていない己の姿を見ているようで、憐れみすら感じる。
佐藤さんが俺のことを好きにならないのと同じで、俺が関谷さんを好きになることはない。
酷いことをしているという自覚はあった。
……それ以上に、佐藤さんに俺と別れるということがどういうことなのか思い知らせてやりたかった。