愛を欲しがる優しい獣
60話:飲みに行こうぜ
コピー室には印刷機の紙送りの音だけが響いていた。課長に頼まれた社内広報の印刷はまだまだ終わりそうにない。このあと、ホチキス止めをして各所に配るのだ。
今月の特集は私が勤めるこの支社の営業部の躍進についてだ。
(タイミングが良いというか、悪いというか……)
営業部の記事ならば、鈴木くんの活躍も紹介されている。写真映りは抜群に良い。
もちろん実物には敵わないが。
(政治家の息子だから当たり前か……)
益々、名前と顔が知られていく鈴木くんが実は特撮ヒーローマニアで、ゲームオタクだということを知っているのは私だけだろう。
……おそらく情熱的なキスをする人だということを知っているのも。
拒むことを許されなかった彼の唇は熱くて、柔らかかった。