愛を欲しがる優しい獣
64話:雪やまぬ夜
(息が白い……)
外に出るとなんとこの冬、最初の雪が降り始めていた。
転ばないように地面にうっすらと積もった雪を踏みしめるようにして歩く。
空から落ちてくる雪はまるで、鈴木くんがくれたスノードームのような粉雪だった。
ゆっくりと舞い落ちる結晶を手袋の上にのせて観察すると、実に見事な六角形をしている。
(寒い……)
息を吸うと肺の中に凍えるような空気が入ってくる。寒さに震える身体を抱きしめながら歩いていく。
マンションに着いてオートロックの玄関の前で、鈴木くんの部屋番号に呼び出しを掛けてみるが応答がなかった。
まだ仕事中なのかもしれない。
それとも、関谷さんと食事でもしているか。
そう思うと携帯でメールを打とうとしていた手が途中で止まった。
(帰って来るまで待とう)
私はもう少しだけこの真っ白な景色を見ていることにした。
おあつらえ向きにちょうど良い高さの植込みがある。屋根があったおかげで濡れていない。
私は植え込みにちょこんと座ると冷え切った手に、はあっと温かい息を吹きかけた。