愛を欲しがる優しい獣

それ以上、追及されなくてホッとした。

鈴木くんが我が家に通っていることはなんとなく周りの人間には秘密にしている。

椿は同期入社で仲も良いが、鈴木くんのことを話すのは躊躇われた。

……話したところで誰からも信じてもらえそうもないが。

鈴木くんが家でしていることといえば、夕食を食べて、ゲームして、セカイジャーのビデオ見て……。

(そういえば私達ってともだちなのかしら……)

椿には“ともだち”と言ってしまったけれど、友達ってこんなに思い悩むような関係だっただろうか。

家にいる時の鈴木くんは会社で見かける時よりも、ずっと優しくて、ずっと謎が多い。

鈴木くんは何も言わない。

そして私も尋ねない。

(鈴木くんはきっと忘れているのよね。……私に告白したことなんて)

何だか胸の奥がもやもやしてくる。

いやだ、これではまるで覚えていて欲しいみたいではないか。

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