愛を欲しがる優しい獣
02話:佐藤さんの事情
(何だったのかしら。今日のあれは)
鍋の中身をお玉でかき回しているとついぼんやりしてしまい、昼間の出来事を思い出してしまう。
(からかわれた?)
からかわれるほど親しく接した記憶はない。
そもそも営業部と総務部では勤務する階が異なる。営業部は10階、総務部はふたつ下の8階だ。
今日のように頼まれて書類を受け渡しに行く時くらいしか10階に行く機会などない。
それではたまたま10階にいた私を見つけてわざわざ声をかけたのか。
そして、公衆の面前であんな大それたことを…。
思い出すだけで顔が赤く染まる。
(好きって?誰を?私を?)
幸い誰かに聞き咎められることはなかったが、いつも冷静だと評判の鈴木くんにしては大胆過ぎた。
役員相手のプレゼンでも堂々と自分の意見を発し、圧倒的な存在感と冷静な分析力でその地位を不動のものにしたというが、今回に限っては作戦ミスもいい所だ。