愛を欲しがる優しい獣
15話:出張の夜
「おーい。起きてるかー?」
「起きてるよ」
「まったく地獄だよな。せっかく出張に来たっていうのにホテルに缶詰めだぜ」
まったくだ、と渉の軽口に同意する。
昼は商談、夜は提案資料の修正でほぼ徹夜。
出張に来てから3日も同じように過ごしていれば、渉でなくても愚痴が零れる。
同じ頃、重役達は取引先と会食の真っ最中で、こちらの現状など顧みることはないだろう。
悲しいかな。これが平社員というものだ。
そろそろ、俺と渉の体力も限界だった。
「飯でも買いに行くか」
「そうだな」
ホテルの階下のコンビニ弁当にもそろそろ飽きていたが、他に選択肢がない。
こうなってくると、佐藤家の食卓がますます恋しくなってくる。
いや、正確に言うと恋しいのは佐藤家の食卓だけではない。