愛を欲しがる優しい獣

(ああ、もう思い出すだけでも恥ずかしい……)

廊下中に響き渡るような声で“ごめんなさい”と叫ぶなんて、目立たず地味に生きることをモットーとしている私にとってはとんでもなく恥ずかしいことだった。

からかわれたくらいであれほど取り乱すなんて、小学生ぐらいなものだ。

今までこういった恋愛事に縁がなかったせいか、この手の冗談は苦手だった。

からかったり、冗談を言う相手は選んで欲しいと思う。

きっと鈴木くんには分からないだろうなと、諦めにも似た感情を抱く。

廊下やエレベーターですれ違う際、鈴木くんはいつもお化粧の上手な美人の女子社員に囲まれていて、私など遠巻きに見ていることしかできない。

……近づこうと思ったことなど一度もないが。

ふっと自嘲的な笑みが漏れる。

そうだ、よく考えてみれば鈴木くんが私など本気で相手にするはずがない。

平凡な大学を卒業した容姿も頭脳も平均的などこにでもいる普通の女子社員。

それが私、佐藤亜由だ。

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