愛を欲しがる優しい獣
第3章
19話:取引
最近、我が家に入り浸っている男がいる。
「早苗ちゃんっていつも難しい顔をして何を読んでいるの」
「参考書。もうすぐ模擬試験だから」
鈴木と名乗ったその男は今ではすっかり弟達の良い遊び相手になっている。
だが、姉さんを見つめる目は熱を帯びていて、単なる同僚ではないことは明らかだ。
機会を窺っているのか。それとも、ただ単にヘタレなだけなのか。
圧倒的に後者だろう、と私の中で結論はとっくに出ている。
「俺も大学受験の時は一生懸命勉強したよ。」
参考書のひとつを手に取ってぺらぺらとめくりだす姿を見て、あることを思いつく。
「姉さんから聞いたんだけど、あなた大学を主席で卒業したんですって?」
「一応は……」
私は読んでいた参考書を静かに閉じた。参考書よりも目の前にいる男に俄然興味が湧く。