愛を欲しがる優しい獣

「渉って総務部の佐藤さんと知り合いだったっけ?」

「新人研修で同じ班だったからな。まあ、総務部の方の佐藤…佐藤亜由の方はあんまり目立たないから、鈴木は顔も知らないと思うけど」

(顔も知らないどころか、毎日会っているけど?)

口には出さないが、いらだちが募る。わざわざ名前を言い直したことが更に癇に障った。

渉は俺の様子に気が付かず、いつものように軽口を叩く。

「付き合うなら佐藤みたいな、静かで大人しいタイプが良いよな」

なあ?っと同意を求められたが、無視して席を立つ。

そのまま廊下を歩いて休憩所までやってくると、俺は力任せに壁を叩いた。

拳にジンと痛みが広がって、ようやく我に返る。

< 92 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop