愛を欲しがる優しい獣
「渉って総務部の佐藤さんと知り合いだったっけ?」
「新人研修で同じ班だったからな。まあ、総務部の方の佐藤…佐藤亜由の方はあんまり目立たないから、鈴木は顔も知らないと思うけど」
(顔も知らないどころか、毎日会っているけど?)
口には出さないが、いらだちが募る。わざわざ名前を言い直したことが更に癇に障った。
渉は俺の様子に気が付かず、いつものように軽口を叩く。
「付き合うなら佐藤みたいな、静かで大人しいタイプが良いよな」
なあ?っと同意を求められたが、無視して席を立つ。
そのまま廊下を歩いて休憩所までやってくると、俺は力任せに壁を叩いた。
拳にジンと痛みが広がって、ようやく我に返る。