愛を欲しがる優しい獣
27話:線香花火
最初は幻かと思った。
鈴木くんのことを考えていたところに、都合よく本人が現れるものだから。
夏の暑さが見せる蜃気楼か、はたまた真夏の夜の夢なのか。
目を離したら消えてしまうのではないかと不安になる。
街灯に照らされてぼんやりと光る姿に、思わず手を伸ばす。どうしても触れて確かめたかった。
「すっかり遅くなったね。皆は?」
鈴木くんの形をした幻は花火のように消えやしなかった。伸ばした手はしっかりと彼の着ている上着の袖を捉えていた。
ようやく、彼が本物の鈴木くんだという実感が湧いた。私は何だか恥ずかしくなって慌ててまくしたてた。