サムライガール!!
1章 Encounter
☆アーネスト
雨上がりのこの街の臭いが大嫌いだった。
からりと晴れた空の眩しささえただ嫌悪を誘う要因となり、街の表面を頼りなく取り繕っていた。
少し爪を滑らせれば剥がれる古びたメッキのように、爪先に遺恨を残してこびりつく。
汗で滲んできたシャツにこの臭いが染み付いてしまわないか心配だ。
排気ガスが洗い流された空気は一見澄み切っているように思える。
だがここに住んでいる人間にとって、そんなに変わったようには見えないだろう。
むしろ外見上だけ綺麗になった分、漂う穢れが浮き彫りになったような気さえした。
黒くすすけたレンガの壁に手をつき、荒れた呼吸を整える。
日の光が届かない路地裏の静けさに目を伏せて落ち着いていると、勢いよく顔をあげた。
「もうここまで来たのか」
まともに休む余裕すらないみたいだ。
非常な現状にため息をつく。ロイヤルブルーの瞳が瞼の下から除いた。
すぅと通った鼻の高さと、白い肌。ゆるやかなウェーブを巻いた髪の毛が薄暗い光に濡れている。
一般の米国人よりも整った顔立ちといえる美貌が汗と疲労で台無しになっていた。
額に滲んだ汗を拭った少年、アーネスト・ブラッドレイは黒くすすけた掌をズボンにこすりつけ、泥水を踏みつけた。
あたり一面に飛び散る水溜りはこの街の薄汚さを代弁しているようだった。