ストーンメルテッド ~失われた力~
「悪いな、隼人。遅くなって」
レトロな雰囲気が魅力的な喫茶店、
《ヴュー ヴィユー》の店内。
そこで、窓の外を見詰めながらくつろぐ隼人に、カゲンは話しかけると向かいの席に座った。
この喫茶店は、数年前にオープンしたばかりの真新しい店だが、人気があとを立たず、この日は、常連客で埋め尽くされていた。
「片山さん。おかわりくれるかな?」
隼人はそう言って、鼻の下に黒髭を生やした店のオーナーを見る。
「またまた、コーヒーを飲むのかい......。お腹を壊すんじゃあないよ?」
そう言いながら、オーナーはコーヒーを素早く汲んでテーブルの上に置いた。
隼人は、コーヒーの一気飲みをした。
喉へひんやりとした感覚が伝わってゆく......。
全て飲み干すと、カップを置いて言い出した。
「そう言えば、カゲン。ストーンの様子は?」
「最高。もうじき元に戻るらしい」
穏やかな表情でカゲンは言って水を一口飲んだ。
「なら、お別れも近いね。俺達......」
しかし、隼人は寂しい表情を浮かべた。
「そうだな。でも、これからも見守るよ。お前は心配だからな、ちょっとやそっとの事で考え込み過ぎたり、疲れきってしまう事が多い......それなのに、悩みを誰にも言わないで、溜め込んでしまう癖がある。悪い癖だぞ? だから、俺は決めた。お前をこれからも神界から見守り続ける」
「それ、ありがたいって言うより、ありがた迷惑だな。だって、恥ずかしいよ。俺の気付かないところで見てるってことだろう?」
戸惑って、隼人はそう言った。
「遠慮はするな」
カゲンはそう言って、笑みを浮かべると大黒天に、パールを日本の人間界で使うお金に変えさせてもらったその、お金で隼人の分まで代金を支払うと、店を出て行った。
「隼人、お前さんの友達は何だかいい奴だな」
オーナーは、カゲンが出て行った店の扉を見つめながら言った。
そして、隼人は微笑んだ。
「ところで隼人、その、神界から見守るって言うのはどう言うっ」......
隼人はオーナーが言い終わる前に口を開き、誤魔化した。
「あ、あ〜! やばい、また、宿題出すの忘れてた」
「まったく、お前さんは......」
オーナーは、ため息混じりに言った。
危機を何とか逃れた隼人は、強ばっていた力を抜くと、再び店の扉を見詰める。
......本当に、ありがた迷惑だよ。
しかし、オーナーの言うようにそれだけいい奴なのだ。と、隼人は確信をする度、寂しい気持ちになった。