ストーンメルテッド ~失われた力~

「ストーンメルテッド兄弟が揃った
なぁ。ハッハッハ」

少しふざけた様な口調でバッカスは気さく
にそう言った。

「............ブラックアイワイン」

彼はクールにその一言を言うと、カゲンの
左隣の丸太に座った。

ブラックアイワインとは、ブラックワイン
に何かの目玉をいくつかプカプカと浮かせ
たワインである。

その目玉の味は、独特な苦味もあるが
甘酸っぱいらしい......。
神達は皆、フルーツ感覚で食べている。

「それにしても、二人をそう呼ぶのは洒落
ていますね、バッカスさん」

そう アスハは客の食器を運びながら言っ
た。

「お前がここへ来るなんてな」

「......意外だったか?」

「いや、そう言う訳じゃ無いけど。
いつも部屋にこもってるイメージだったか
ら。」

素直に彼は思った事を口にした。

「そんな風に君に思われていたとはな......」

相変わらずクールな表情のまま彼は言う。

「いや、悪い意味じゃないぜ!?」

すると、居酒屋にいる全員が彼の方を振り
向き “うそだろ?” と言うような顔を浮かべ
ていた。

「いやー、そのー......」

そして彼は咳き込んだ。

「無理するな」

変なところでエンデュは気を遣った。

「はいよ。特製ブラックアイワインだ」

バッカスはそう言ってカウンターテーブル
の上にワイングラスを置いた。

そこにプカーっと浮かんでいるグリーンア
イの目玉を彼は指でつまみ上げて口へ運ん
だ。

口の中で弾けるこの独特な苦味と甘酸っぱ
さがたまらない。

外面からは、けして美味しそうに味わい食
べている様には見えない。
やっぱり エンデュはポーカーフェイスだっ
た。

カゲンは、ずっとエンデュが食べる姿を見
つめていた。

「いっつも思うんだけど、それって うまい
の?」

「......あぁ」

そう言われ、カゲンはエンデュのブラック
アイワインに浮かんでいる目玉を指でつま
み上げて食べてみた。

「甘酸っぱくてうまーい! ......意外と」

噂に聞いていたフルーツのような甘酸っぱ
さも確かにある。しかし、独特な何とも
言えない苦味を感じて彼は顔をしかめた。

「それは、子供のお前にはまだ早すぎ
る」

単純な性格のところが少し子供っぽい彼を
エンデュはからかってみた。

すると、後ろの方でナーサティヤとダスラ
がクスクスと笑っていた。

「それ、言えてるー」

ダスラは、可笑しそうにそう言った。

その言葉を聞いたカゲンは、後ろをちらっ
と振り向いた。

「ダスラ、俺をいくつだと思ってるんだ。
5012歳だぞ? お前より2.5倍 生きてるんだ。からかうな」

「へ〜。5012年間もワインに浮かんでる
ただの目玉を怖くて食べられなかったん
だー。ふふふっ」

ダスラが可笑しそうに言うとナーサティヤ
も乗りが良く、カゲンをからかう事を楽し
む。

「ほんと、人間の3歳児と変わらないわ
ね」

二人は、カゲンをからかってクスクスと
また笑う。

「お前が変なこと言うから、またあの二人
に からかわれただろう」

「......ふっ」

エンデュは苦笑いをした。
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