ストーンメルテッド ~失われた力~
そんな中、ヘリオスがピアノで引いている優しいメロディーを批判している客がい
た。

「おい、ヘリオス! またその曲か? いい加減飽きちまったよ。毎日毎日、その曲だとな」

この酔っ払い客は、暗黒の神であるエレボ
スだ。

彼は人の外見はしておらず、骸骨の外見を
している。
服は鎧に身を包んでいるようだ。
彼のような神は、アムール国ではかなり
珍しい。

骸骨やサイボーグの外見をした神は大抵、黄泉の国や邪神がうじゃうじゃといる様な帝国を好み住んでいるのだ。

すると、彼はピアノを引いていた手を止め
てその酔っ払い客、エレボスに言った。

「この曲は、ビーナス女王様がお気に召し
た曲ですよ? それに、ジュノだって......」

「言い訳はいいから早く別の曲を引いてく
れよな! それにお前、ジュノとはもう終わっちまったんじゃないか。
まぁ、無理もないよな。あんな闇を扱う
美女が力を失っちまえばただの女だ女」

それは、カウンター席に座る二人にも聞こ
えた。

二人はエレボスをその場で睨みつけながら
様子をうかがう。

「終わった訳じゃないですよ......。
ただ、今は上手くいかないだけです。
..................なんでこの事を知っているん
ですか?!」

「ジャックからの知らせだよ。
あのコウモリは、いつも誰かの不幸な光景
を見て楽しんでいる。俺みたいにな」

そう言うとエレボスは、木のテーブルの上
に置いてあったパリパリロッテンフィン
ガーチップスを食べる。

その名の通り、腐った誰かの指をパリパリ
のチップスにしたものである。
誰の指かは不明だが......
おそらく、死刑となった神の死体をサイク
ルしているのだろう。

これを何のためらいも無く平気で食べてい
るエレボスの様な者もいれば、当然好んで
食べはしない者もいて、食べなきゃ余計
可哀想だといって食べる者もいる。

そのエレボスを見詰めながらヘリオス
は、拳を握り締めた。



カウンター席から見ていた二人は思った。

............もしかするとこの男は、ナキアよりもたちの悪い神かもしれない......と。

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