檸檬-レモン-


「あ、そうだ。割引券、ありがとうございました」


「いえ、こちらこそ。来ていただいてありがとうございました」


こんな所で何をしているんだ、とでも言わんばかりに篠崎さんは不思議そうに私を見る。

細身の白いパンツが、篠崎さんの柔らかさにすごく合っている。つい吸い込まれるように見つめてしまった私は、篠崎さんがフッと噴き出すまで気が付かなかった。


「どうしたんですか?」


「いや、あの…"レモン"に何回か行ったけど、篠崎さん居なかったなぁって…」


すごく心地よくて、ずっと話していたくなる。


「僕は表には出ないんです。まあ、たまに出ますけど」


「そうだったんですか。いつも帰りは遅いんですか?」


「まちまちですね。今日は明日分の仕込みと、新作の試作をしてたので遅くなりましたが」


新作?!

声にならない私の表情を読み取ったのか、篠崎さんはニッコリ微笑んで続ける。


「レモンを使った、新作です。もしかしたら近日解禁になるかもしれません。よかったらまたぜひ」


「はい…」


篠崎さんは甘い匂いを残して、エレベーターに乗っていった。


今日は少し、レモンの爽やかな匂いも混じっていて。


鼻腔をずっと、刺激し続けていた。



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