檸檬-レモン-
「早苗ね、中津さんいいなぁって思うんだけどさ…」
「けど…?」
早苗と社員食堂に来ていた。
いつもだいたい外で済ます事が多いけれど、朝から雨だった為、久しぶりに社員食堂にしたのだ。
私は豚カツ定食のキャベツをむしゃむしゃと食べながら、浮かない顔の早苗を見る。
「悟くんも…よくて」
「だって、悟くんて彼女持ちじゃないか」
中津さんを紹介される前から、悟くんとは早苗のお気に入りの人で。
彼女がいるにも関わらず、早苗と遊んでいる。
早苗も早苗で、それで満足してしまっている。
「でも…早苗のこと好きだって…」
早苗はオムライスをスプーンですくいながら、ぼそぼそと言った。
「そんなの口だけだって。早苗のこと本当に好きだったら、彼女と別れるでしょ?」
「そうなんだけどさぁ…なんか彼女が別れてくれないんだって言うの」
キャベツの横についているレモンが目に入る。
くし切りにされたみずみずしいレモン。
私はそれをおもむろに豚カツの上に搾った。
「何とでも言えるよ。都合いいように。早苗、幸せになりたいなら、中津さんがいいって」
それを見ていた早苗は、瞳を真ん丸にして私を見た。
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