檸檬-レモン-


会社の喫煙室は、外にある。

小さいベンチに灰皿、自動販売機が1つ。

年々喫煙者も減っていき、肩身が狭くなった結果これだ。


蒸し暑く、何もしていないのに汗が滲む。


俺は胸ポケットから煙草を取り出して、火を点けた。

携帯に入った連絡を見つめたまま、煙を吐き出す。


『やっぱり翔じゃなきゃやだ。やり直したい』



俺は去年まで付き合っている彼女がいた。
胡桃沢には負けるけれど、5年そこそこ続いた。

嫌いになったわけではない。他に好きな人が出来たからではない。


ただ、息苦しかった。


会いたいとか、次いつ会えるかとか、そればかりがプレッシャーになって。いつしか避けるようになった。

彼女の気持ちと同じ熱で、歩けなくなった。

ちょうど仕事も忙しくなってきた頃と重なって、別れを切り出したのは俺だ。


何て、返事をするか。それを考えることさえ、窮屈に感じる。


「山口?なんか元気ないじゃん」


俺の些細な変化に気付いて、声をかけてきたのは胡桃沢だ。


はっとして、向かいのデスクを見る。


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