檸檬-レモン-
フリーズ
花火大会の当日。
まだ16時なのに、あちこちに浴衣姿の女の子が見える。
私も浴衣着てきた方が良かったかな…
って、山口とだし。
ごくりと唾を飲み込んで、なんだか緊張してきた自分がいる。
「胡桃沢」
「よっ」
山口は今日も爽やかだ。
「なんだ、浴衣じゃないんだ」
「着てきて欲しかったの?」
「暗黙の了解だろ?」
それを聞いて笑いがこみ上げる。
いつもの、山口だ。
駅から土手までの道をゆっくりと歩き出した。
「山口もさ、他に誘いたい子いたでしょー?よりによってあたしですか」
「随分と自分を下げるね。別に行きたいから誘ったんだよ」
単純に嬉しい。
「高くつくよ?」
「調子乗んなし」
山口の隣は楽しいな。
本当、楽だ。くだらないことでもお腹が痛くなるまで笑える。
屋台でビールと唐揚げを買って、ほとんど人で埋まった土手の真ん中に腰を下ろした。
「かんぱーい」
まだ花火は上がっていないけど…。
生暖かい風が今は心地いい。
「やっぱビールがうまいな、夏は」
「オヤジみたいなこと言うなよ」
山口はけらけらと笑いながら、私を見る。
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