檸檬-レモン-



早苗がトイレに行くと言えばついていくし。
コピーをとりに行くと言えば一緒に行った。

オフィスにひとり残されたくなくて。
その間に、山口が出勤してきたらと考えたら、女子高生のように早苗の後をついていった。


「本当、どうしちゃったの?」


「え…いや、どうもしない」


早苗は相変わらず私を不審に思っている。
私も早苗の立場だったらそうだろう。

資料を抱え込むようにして、顔を半分隠した。


「あ、山口くんおはよう!ねぇ聞いてよ、奈々ったら今日へ…」

「あーー!早苗忘れ物してきちゃった」


早苗を遮って、私は腹の底から声を出した。


早苗はぎょっとしたまま、口を開けていて。


私は元来た廊下を引き返していった。


もちろん、忘れ物なんかしていないのだ。


私の心臓は、100メートルダッシュをした後のようにドクドクいっていて。


顔が真っ赤になっていると、自分でも分かったから。


結局、山口にちゃんと挨拶ができないまま仕事が始まる。

パソコンの画面で、向かいのデスクから見えないようにうまく隠れながら…


バカみたい…こんなに動揺しちゃって

本当、何やってんだろ…


.
< 48 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop