檸檬-レモン-
早苗がトイレに行くと言えばついていくし。
コピーをとりに行くと言えば一緒に行った。
オフィスにひとり残されたくなくて。
その間に、山口が出勤してきたらと考えたら、女子高生のように早苗の後をついていった。
「本当、どうしちゃったの?」
「え…いや、どうもしない」
早苗は相変わらず私を不審に思っている。
私も早苗の立場だったらそうだろう。
資料を抱え込むようにして、顔を半分隠した。
「あ、山口くんおはよう!ねぇ聞いてよ、奈々ったら今日へ…」
「あーー!早苗忘れ物してきちゃった」
早苗を遮って、私は腹の底から声を出した。
早苗はぎょっとしたまま、口を開けていて。
私は元来た廊下を引き返していった。
もちろん、忘れ物なんかしていないのだ。
私の心臓は、100メートルダッシュをした後のようにドクドクいっていて。
顔が真っ赤になっていると、自分でも分かったから。
結局、山口にちゃんと挨拶ができないまま仕事が始まる。
パソコンの画面で、向かいのデスクから見えないようにうまく隠れながら…
バカみたい…こんなに動揺しちゃって
本当、何やってんだろ…
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