檸檬-レモン-



「ここから、胡桃沢の幸せは始まっていくんだよ」


山口の言葉に、胸が詰まる。



「うん、ありがと」


山口のこと、すごくすごく好きだ。


でもそれは、友達として…



「山口のこと、大好きだから」


「期待させること言うなよ」


電話越しに山口は笑う。


「ごめん…」


「嘘だよ。分かってるって」


涙が引いていく。
見えないのに、何度も私は頷いた。


私の幸せが、始まる。

なんだか温かくて優しいものに包まれたよう。

絶望だった未来に、光が差したみたい。


辛いことは避けては通れないけれど。


辛いことばかりじゃないんだよって…



「でも、好きでいていいんだよ。元彼のこと」


ずっと、その言葉が欲しかったのかもしれない。

忘れなきゃ、諦めなきゃって急いでいた私に。


本当は、自分に嘘つかなくていいって。


誰かに認めてもらうことで、私は安心したかったんだ…



山口は、よく私を分かっていてくれていたんだね。



自分以上に、私を。



気持ちに、答えられなくて…ごめん。



「ありがとう…山口」



また涙が頬を伝った。



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